今どき30代は、皮膚呼吸をして生きている①ー「夜空はいつでも最高密度の青色だ」
「夜空はいつでも最高密度の青色だ」を観て、
ここ数日の「点」が「線」になった。
どんな点がどんな線になったのかと言われたら、
「30代、いいじゃん」ってことに尽きる。
「いい」
っていうのは、もちろん価値判断で、
つまり、おれにとっていい、ということ。
おれが思っていることを次々と、
いろんな分野で形にしてくれる人が現れている。
それは翻って、自分の感じていることや考えていることは、
きっと間違っていないっていう勇気を与えてくれる。
「もやもや」を抱えることは、まちがったことじゃない。
それを理由に自分をマイナス評価をする必要はない。
その「もやもや」や、逃れられなかった「宿命」とともに、
生きていこうよ。
そんなメッセージ、実はこの1週間で3度も浴びている。
(他の2回は、別の日に紹介することにする)
「夜空はいつでも最高密度の青色だ」は、
1983年生まれの石井裕也が、
1986年生まれの詩人、最果タヒの同名の詩にインスパイアされて作られている。
映画のキャッチコピーには、タイトルの由来になった詩。
都会を好きになった瞬間、自殺したようなものだよ
塗った爪の色を、きみの体の内側に
探したってみつかりやしない
夜空はいつでも最高密度の青色だ
誰も愛さない間、きみはきっと世界を嫌いでいい
そしてだからこそ、この星に、恋愛なんてものはない
映画のストーリーについてごくごく簡単に言うと、
都会で社会の「底辺」として傷を抱えて生きる男女が、出会い、だんだんその距離を縮め、絶望的でどこか悲しくて、苦しくて、果てない日常に、少しだけ希望を見出す物語である。
もう、「はやくどっかで泣かせてよ」って思ってしまうほど、
どこか苦しい毎日が描かれる。
生きるためって言えるほどのやる気も目的も持てないのに、
生きるのには金がかかる。
キツい仕事をしては、毎日の命を買っている。
道の片隅で生きる犬は、やがて殺処分されていく。
工事現場で突然死んだ同僚を弔う場で
「職場で死ぬなって言っとけ」という職場の上司がいる。
イラクでは、シリアでは、何人も人が死んでいる。
・・・・。
なにを、どう感じたらいいんだろう。
こういう現実を無視してたら、楽しく生きていけるのかな。
でも、
悲しい不条理な現実があることにも、
それを見て見ぬフリしちゃってる自分にも、ちゃんと気づいている。
そしてそれは、じわじわとおれたちから、
生きる「輝き」みたいなものを奪っている。
それは、ただのおれの個人的な「弱さ」や「甘え」だと思っていた。
だけど、どうも違うらしい、と最近思い始めていて、
この映画は、実に上手にその感覚を描いている。
最果さんの詩から、今まで言葉にできなかったもやもやとした気分にどうにかこうにか触れようとしている姿勢を感じて、そこを中心とした、ボーイミーツガールの恋愛映画を作りました。
映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ インタビュー: 「今の時代、いかにして生きるか」石井裕也監督、石橋静河&池松壮亮主演で現代詩を映像化 - 映画.com
「ザマァみろ」
最後の方で、ある登場人物が言う。
そうか、生きてることにそう吐き捨てればいいんだ。
「ザマァみろ」
それは、不条理に死んでしまう不幸を、祝福するための魔法。
不条理の中に生きるしかない不幸を、祝福するための魔法。
そんな両義的な呪詛の言葉で、
おれたちはこの街を生き延びている。
浮遊するように生きる、
ということは、
ダメでも弱さでも無気力でもなくて、
航海術なんだ。
誰かをブチのめす正しさのあやしさに気づいてしまった30代。
大風呂敷な愛の言葉が、怒りと同じくらいに
ただエネルギーだけを奪っていくんだってことに気づいてしまった30代。
そうして、安易な言葉で他人に手を伸ばさないくせに、
共に呼吸をしていることに安らぎを見出そうとする絶望的な優しさを試みる30代。
「いいじゃん」